池田瓢阿のコラム

ここでは、茶の湯の籠や竹に関する研究者として、文化博物誌的な籠や竹について興味を抱きつつ、とめどなく広がっていく想念を書き留めるべく、その一端を綴っていきます。

vol.02

籠のはじまりⅡ

R.jフォーブスの著作『技術の歴史』によれば、人類が初めて出合った籠は、木の小枝で編まれた「籠」でした。ただし、人間が編んだ「籠」ではありません。鳥が編んだ「籠」、すなわち「鳥の巣」だったといわれているのです。

鳥には生まれながらにして「籠(巣)」を編む能力が備わっています。誰に教えられるでもなく、木々の小枝を集めて巣という器をつくり、ヒナを育てます。ヒトは親鳥の目を盗んでその「鳥の巣」を手に入れ、器として使う過程で、籠づくりの技術を学んだというのです。さらにヒトは、水を汲むために籠に粘土質の土を塗って用いるようになりました。やがて火を使う術を知ったヒトは、粘土を塗り込めた籠を火で焼けば、それは土器になることを知り、これが「陶器」のはじまりとなります。

また、ヒトによって考え出された「籠」を編む技術は、その編目から「織物」へと繋がり、「籠」を編む能力は、数学へと結びついていきます。こうして籠を編む技術がヒトの可能性を大いに高める手助けをしたとされています。

「鳥の巣」から「籠」へ、そして「土器」から「織物」へと続くR.jフォーブスによる技術の発展の歴史における仮説は、籠づくりが人類の発展に貢献したことを示唆しているといえるでしょう。

vol.01

籠のはじまりⅠ

私たちの身のまわりには「籠」と呼ばれる器がさまざまあります。その素材も植物素材を中心として、そのほかにも金属やプラスチック、紙などが使われているのを見ることができます。しかし、日本古来の素材といえば、やはり「竹」でしょうか。私たちは長きに亘り竹を素材とした「籠」に親しんできました。

ただ、もしあなたがフランス人であれば、「籠」は「柳」で編まれた器と答えたかも知れません。ヨーロッパでは、「柳」の籠が古くから用いられていたのです。さらに、古代エジプトでは紙の材料ともなった「パピルス」で籠が編まれたともいいます。ほかに、亜熱帯ではインドネシアの「籐」に代表される蔓性の植物がよく籠の材料として用いられ、寒冷な地域では「スギ」「ヒノキ」などの木のヘギで籠がつくられてきました。

つまり、金属であれ、プラスチックであれ、紙であれ、その編み方・法則にしたがえば、籠と成り得るのです。 では、時代をはるかに遡った時、人類が初めて出合った籠は、いったい何で編まれていたのでしょうか。実は、この答えに関して有力な説があります。 この続きは、次回へ…。

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